琥珀の煌

何か作ったものなどを記録として残していく

KATANA60 Clone を作った話

本記事はキーボード #1 Advent Calendar 2021の9日目の記事です.

adventar.org

きっかけ

私は普段SymmetricalStaggerの40%か50%のキーボードを利用しているのですが,数字列でショートカットやマクロを実行したいと思うことが多くなり,60%でSymmetricalStaggerのキーボードが欲しいなと思うようになりました.

60%でSymmetricalStaggerのキーボードと言えばKATANA60が有名ですが,もう売られておらず入手することが難しいです.もし手に入ったとしてもUSB miniB コネクタといったことから個人的に不便と感じる部分があります.

それならいっそ自分でKATANA60を作ってしまえばいいとなったのが事の始まり.

60%トレイマウントケースで作るSymmetricalStagger配列

細かな配列を決める

今回のコンセプトは,KATANA60のcloneを作ることと決めています.そのため基本はKATANA60の配列に合わせた形にしたいと考えていました. KATANA60の配列は以下のようになっています.

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CANDYKEYS KATANA60 PCB V2より引用

KATANA60の配列を基礎に個人的にいらない部分をそぎ落しました. その結果がこちら.

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KATANA60 cloneの配列
大きな変更点は最下段の部分です. まず,KATANA60 PCB V2では8通りのバリエーションがあったのですが,そのバリエーションを1つにしました.これは個人的に最下段はこれしか利用しないだろうと思ったことと,バリエーションを持たせるほど設計が面倒と言うのが理由です.
さらに,最下段の配列を左右対称となるようにしました.これはSymmetricalStaggerなのだから左右非対称にしたくないという個人的なこだわりです.

設計・あわせこみ

60%のトレイマウントケースはケースの底から生えているところにPCBとビス止めすることで固定します.そのため,このケースの底から足が生えている部分であるマウンティングポイントにPCB側のキースイッチなどの部品が干渉しないことが大前提です.

しかし,汎用60%ケースに対応しているKATANA60の配列とケースのマウンティングポイントを合わせてみると…

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中央をよく見るとマウンティングポイントとキースイッチが干渉している(赤枠)

中央のマウンティングポイントがキースイッチが干渉していました.オリジナルのKATANA60だと中央のビス止めはどうなっているんだろうと気になっていろいろ調べてみましたが,KATANA60を作成している方の動画を見る限りは特に干渉しないようにする工夫はされておらず中央以外の部分にビス止めを行っていました.

で,無視しても問題ないのかなといろいろ試してみると

画像からでは分かりにくいですが,キースイッチのボトムハウジングがケースのマウンティングポイントと干渉してはんだ付け時にPCBが浮くことが判明. これだと両サイドのビス止めをした時にPCBが多分曲がる(と言うか普通に曲がる)し,間違いなく打鍵感に影響出るのでどうにかする必要があるとなりました.

当時設計している時点で私が思いついた解決策は以下の2つ

  • 中央のマウンティングポイントを外すことができるケースを利用する
  • 仕方なくキー配列を変更する

今回はケースを変更することで解決しました. というのも設計していた時期にちょうどよくMEKANISKのFjellのGBが行われていました.これはpoker互換のキーボードケースで,トレイマウントながらブラスウェイトをもっています.また,中央のマウンティングポイントを取り外せることが特徴です.中央のマウンティングポイントさえ取り外すことができれば,抱えている問題は解決することと,今までハイエンドなケースを持ったことがなかったので,この際だから買ってみようと思い購入しました.

もう一つのキー配列を変更することについても試行錯誤をしましたが,私が利用しやすい配列とマウンティングポイントが干渉しないことのバランスが取れず断念しました.
既存のトレイマウントを魔改造することで解決もできるがそれは知るのは作った後のおはなし

最終的なPCBレイアウトはこうなりました. ai03さんのvoyager60の外形を基礎にして中央のマウンティングポイントを削除してます. 設計初期ではソケット対応をしようとしたのですが,どうしてもMUCを入れることが難しくなり断念しました.

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材料をそろえる

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ケースは迷いに迷ってブラックにしました.届いてみて想像以上にちゃんとしたブラックで始め見たときは真っ黒だとなってましたね,それなりのお値段するのでかなりしっかりしててよかったです.

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プレートはアルミにしました.本当はブラスプレートにするか迷ったのですがソケットを利用していないこともあり酸化してしまったらプレートの交換ができないことを考慮してアルミになりました.正直酸化を気にするならFR4プレートで良かった気がする.

作成・完成

部品がそろったらKiCadのシート見ながらはんだ付けして導通チェックして完成です.はんだ付けはMUCからUSB type Cコネクタまではんだ付けするので大変でした.

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アルミのプレートはクリアスプレーを薄く吹き,裏にはKBDfans module foamをぺたぺた貼りました.

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左右対称となるようにしたのでレイアウトがとてもきれいにできたと思います.中央に隙間ができてしまうのが残念ではあるんですがもう慣れました.

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ドラネッツかわいいね

使った感想・まとめ

現状数字列にはショートカットやマクロを入れていますが,利便性が上がりました.特にゲームするときには大変重宝しています.数字列にマクロを雑にいれて利用できるので結構便利でした. 一度,普通に数字列として利用しようとしていたのですが,手が小さいせいか数字列まで指を移動させるのが結構辛いので,結局ショートカットやマクロで利用することに落ち着いています.

自作キーボードやカスタムキーボードのコミュニティでたびたび「重さは正義」と聞いていたのですが,今回Fjellを利用して大きく実感しました.重いおかげで打鍵感が非常に安定します.他のキーボード使っている時は,打鍵中にキーボード本体が動いてしまいそうだなみたいな不安があったのですが,それが全くないです.

音については,プレートにKBDfans module foamを貼っていることやPCBとケースの間にEVAスポンジシートも入れているので余計な反響音はかなり低減できている気がします.またスタビライザーにグリスを塗布したり,スタビライザーの下にフォーム仕込んだりしているため,キースイッチとキーキャップの音のみがなる感覚になっていると思います.キースイッチはEverglide Dark Jadeを使っているので音は割とうるさいです.ただ不快な音ではなく,個人的にはかなりこの好みの打鍵音になったなと思っています.

反省点としてキーをNorth facingではなくてSouth facingで配置すればよかったなと思っています.これはNorth facingとCherry Profileのキーキャップの相性が悪いからです.私はCherry Profileのキーキャップをあまり持っていないのであまり気にしてないですが,いつかCherry Profileのキーキャップにしたいって時に変えられないのはつらいです.

ただ,それ以外については非常に満足です.レイアウトも満足いくものになりました.また初めてPro Microを使わずに設計しましたがうまく動作してくれたので安心しています.前回忍刀53で50%を作り,今回60%を作ったので,次は40%キーボードでも作ろうかなぁ…とぼんやり思っています.


この記事はKATANA60 clone + Everglide Dark Jade Switches(Tribosys 3203 lubed) + TEX ADA keycapsで書きました.

忍刀53作った話

きっかけはゆるキーvol.5

弁当屋Pさん(@Bentouya_P)から小太刀40のと言う左右対称な配列のキーボードの試作基板をいただきました.


作った

実際に使用してみると左右対称な配列がすごく手に馴染み,この配列に記号キーを足したキーボードが欲しいと思ったのがきっかけ.




忍刀53とは

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  • 53キー・一体型
  • アクリル積層ケース
  • CherryMX互換スイッチ対応
  • SymmetricalStagger
  • コンパクトながら記号キーが見えている
  • ホットスワップ非対応
  • 光る

レイアウトについて

SymmetricalStagger

一言でいえば八の字のようにずれている配列のことを言います. メリットとしては,小指が打ちやすいこと,両手が自然にハの字になるため手首の負担が軽減されるなどがあります.

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こんなやつ

このように一体型ながら負担が少ない配列ですが,あまりSymmetricalStaggerで自作キーボードを開発している人はあまりいないです.(最近は増えてきているがキットとして販売しているものは少ない) このような配列のキーボードで代表的なものとして,KATANA60というキーボードがありますが,すでに販売されておらず,他にもいくつか似たようなものもありますが,売ってないものがほとんどです.
そのため,SymmetricalStaggerな配列を試したいと思っても自分で作るしかありませんでした.
しかし,最近ではシンメトリカルZincというキーボードが販売されていて,現状これが一番お手軽にSymmetricalStaggerを試すことができるキーボードだと思います.興味がある方はぜひ.

小太刀40レイアウトについて

小太刀40は以下のような配列になっています.

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小太刀40レイアウト

ごらんのとおり,記号キーが見えておらずほぼすべての記号キーが他レイヤにあります.持ち運んで使用するにはコンパクトでとても使いやすく特に不満はありませんでした.しかし,自宅で利用しているうちに,プログラミングなどを行う際,利用頻度の高い記号キーが見えておらず,タイピングをスムーズに行えない不満がありました.

そこで,自宅で利用する用に,小太刀40に記号キーを足したキーボードを作っちゃおう!ってなりました.


なお,小太刀40の詳細については作者がブログを書いているのでそちらをぜひ見ていただければと思います. bentouya-p-blog.hatenablog.com

忍刀53のレイアウト

忍刀53は小太刀40のレイアウトの影響を大きく受けています.

小太刀40に記号キーを足したレイアウトになっていて,記号キーは内側に配置しました.これは当時,私がErgodashと言う分割キーボードをよく使用していたことから,そのレイアウトに合わせた形にしています.

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忍刀53レイアウト
また,親指周りの配置も他のSymmetricalStagger配列のキーボードとは違う配置をしています. これ実は,設計段階ではなくTwitterでいくつか反応をもらって気付いたのですが,SpaceとEnterが他のキーボードよりも内側に配置されています.

実際に比較してみるとわかるのですが,忍刀53は,KATANA60やkodachi40よりもSpaceキー,Enterキーが内側(中央に寄っている)に配置されています.

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KATANA60(上)と忍刀53(下)

これによって,隣接したキーへのアクセスが簡単にできるようになるというメリットが生まれました.

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ホームポジションに手を置いたときに親指の位置が画像の場所になり
隣接したキーへのアクセスが簡単に可能になっている

意図したことではないですが,これは忍刀53の一つの大きな特徴なのかなと個人的には思っています.

おわりに

いろいろ書きましたが,kodachi40の影響をとても受けているということが伝われば十分です.

去年の1月から自作キーボードの世界に入り,1年たたないうちに自分でキーボード設計して作りましたが,やっぱりモノづくりは楽しいなと改めて思いました.私は情報系ではあるのですが,要求工学の分野がメインなので,コーディングするような機会も少なくここ数年はあまりモノづくりをしていなかったため,とても楽しく作ることができました.電子工作についてははんだ付けは幼少期に何度もした経験があったので問題なかったのですが,回路の設計なんかは完全ド素人でした.でもなんとかなりましたね.ここは自作キーボード界隈のサポートが手厚かったです.ほんとに.

初めてのキーボード開発でしたが,かなり満足度の高いものができたかなと思います.もちろん,まだいろいろ課題を残した部分もあるので,それは改良していきたいなと思います.忍刀53を半年ほど使用しましたが,ほんとに手になじみます.親指周りの配列は意図していませんでしたが,とても便利です.

忍刀53は,天キーvol.3にて展示させてもらったのですが,やっぱりSymmetricalStaggerはあまり人気ではないなぁと実感しますね.ただ,ここ最近のTwitterを見ているとSymmetricalStaggerのキーボードを作っている方をちらほら見かけるのでそれなりにはと言った感じでしょうか.

とまあこんな感じでしょうか.これで終わりにしようと思います. つたない文章ではあったと思いますが,ここまで読んでいただきありがとうございました.











おまけ

忍刀53の由来(とロゴを作った)

わかる方はわかると思いますが,KATANA60とkodachi40に倣って忍刀53/shinobigatana53です.

なにかの刀を名前にしたいというのは,設計中にずっとありました.それで,真っ先に思い浮かんだ刀が,自分がプレイしているとあるMMORPGで,忍者をメインジョブとしていたので,その武器である双剣が思い浮かびました.だた,双剣はなんか違うなぁとなりまして,じゃあ忍者が持つ刀の名前ってなんだってなったときに「忍び刀」が思い浮かんだというのが由来です.あとは,小太刀,忍刀というのは,基本的に持ち歩きやすさを重視した武器です.そういう意味でも,記号キーがありながら,持ちやすいキーボードであってほしいと思い,この名前に決定しました.ただ,忍刀53はまったくもって持ち運びには向いてないものになってしまったのでそこは残念と言ったところです.

時間があるときにロゴを作ってしまいまいました.こちら.

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忍刀53のロゴ

我ながらそこそこいいものができたなと思うのと,(多分)使うことはないのでここで供養したいと思います.

今作っているもの

KATANA60が欲しくなったのですが,買えないので自分で作ろうということでKATANA60のクローンを現在作ってます.

すでに基板自体は手元にあるのですが,ここ数か月忙しくて動作確認ができてない状況です.もう少しすれば1か月ほどの夏休みがやってくるのでその時に完成させようかと・・・・

あともう一つ,忍刀53の改良版を作ってます.

こちらはまだ基板発注しておらず,ずっと眠っている状態です. コンセプトとしては従来の忍刀53のコンセプトに加え,

この3つが従来の忍刀53との大きな違いです.
しかしながら,はんだ付けの難易度は上がりました.

最後に.

忍刀53作って終わりかなぁと思ったんですが,なんやかんやいろいろ作ってます.やっぱりモノづくりは楽しいです. 今年は,自分で設計してばかりなのでそろそろ自作キーボードキットを何か一つ買って作りたいなぁと思います.


この記事は忍刀53で書きました.